特別支援教育「卒業後に暮らしてみたい部屋をデザインしよう」
MESHを取り入れた授業を実践された東京都立あきる野学園の菱真衣先生に、実施背景や授業展開について伺いました。
- 実践者:東京都立あきる野学園 教諭 菱 真衣 先生
- 実践校:東京都立青峰学園
- 現任校:東京都立あきる野学園
- 障害種別:肢体不自由
- 対象 :高等部 知的障害を併せ有する課程
- 教科 :教科横断(家庭・住生活+情報・デザイン)
本授業の狙いは?MESHを採用したきっかけは?授業の流れ・様子ツール流れ1. 問題の発見:どんな部屋に住んでみたい?2. 原因の分析:実際に暮らせる部屋になっているか3-1. 解決の手段:暮らせるデザインにするために3-2. 解決の手段:テクノロジーを活用したら4. 実行:快適に暮らせる部屋を提案しよう本授業の成果と課題は?MESHを使用してみた感想は?関連情報
本授業の狙いは?
住居の基本的な機能や快適で安全な住まい方について、アプリケーションを使ったシミュレーションで学ぶ授業です。へルパー等からの支援を受けたり、スマート家電を活用したりするなどの工夫により、障害のある人が一人暮らしをすることができるようになりました。ユニバーサルデザイン、スマート家電について取り扱い、卒業後の暮らしの選択肢を増やせるよう授業を展開します。そして、これらの学習活動を通して、情報機器等を活用しながら豊かに暮らしていく態度を育みます。
MESHを採用したきっかけは?
いろいろなプログラミング教材を使用している中で、MESHは障害のある生徒も手にとりやすいサイズであること、1つのMESHブロックで1つのセンサーと機能的に分かりやすいことから採用しました。
授業の流れ・様子
ツール
- MESHブロック
- iPad(MESHとRoomieのアプリを使用)
- Gmail
流れ
まず、住居の基本的な機能や家族の安全、快適さを考えた住空間の整え方について調べ学習を行い、IoT家電を活用した暮らし方を体験しました。その後に、以下のように問題発見から実行までのプロセスによって、自分の生活にどう取り入れるべきかを考えました。
1. 問題の発見:どんな部屋に住んでみたい?
将来どのような家に住みたいかを考えました。
iPad用アプリの「Roomle」を使い、計画に沿って部屋のデザインを行いました。制作過程で必要性を感じた家具等はその都度追加していきました。
2. 原因の分析:実際に暮らせる部屋になっているか
実際に暮らすことを想定して不便なところを考えました。
- 入口にラグがあると車いすで通れない。
- 車いすで使用するためパソコン用いすが邪魔になる。
- トイレが狭く車椅子で使えない。
- 脱衣所が狭く車椅子が通れない。
- お風呂にリフトをつけたいがスペースが足りない。
3-1. 解決の手段:暮らせるデザインにするために
実際に自分が生活することができるようユニバーサルデザイン等の視点を取り入れて、以下のような改善を行いました。
- 入口にラグがあると、車いすで通れないため場所を変更した。
- 車いすで使用するため、パソコン用いすは撤去した。
- トイレが狭く車椅子で使えないため、広くした。
- 脱衣所が狭く車椅子が通れないため、広くした。
- お風呂にリフトをつけたいため、広くした。
ユニバーサルデザインの視点で、車いすで暮らせる空間を作ることができました。さらに、計画段階では挙げることができなかった生活に必要な機能やものに気づくことができました。
3-2. 解決の手段:テクノロジーを活用したら
MESHを使って一人暮らしを豊にする方法を考え、試行錯誤して、MESHを使ったプログラミングを考えました。
- 帰宅→家族にメールが届くしくみ(人感+gmail)
- 寝るときに家族に連絡するしくみ(明るさ+gmail)
- カギを施錠すると通知が届くしくみ(動き+通知)
- 暑くなったら/寒くなったら空調を促すしくみ(温湿度+通知)
人感センサーで人を感知すると、メールで母に帰宅連絡をするというプログラムを試す
生徒の振り返り
MESHを使って一人暮らしをする時に親に自動で連絡する機能を作りました。自分のメールアドレスで試してみました。メッセージが届いていました。一人暮らしをする時に役立ちそうです。
4. 実行:快適に暮らせる部屋を提案しよう
AIやIoT家電、センサーをどの位置に取り付けたいかを考えました。スマート家電で自分の生活で取り入れられそうな工夫として、以下のアイデアが出ました。
- カーテンを自動で開けて、閉めてもらう。
- テレビを自動でつけてもらう。
- 電気を自動で消してもらう。
- 玄関の鍵を自動で閉めてもらう。
- 掃除ロボットで掃除してもらう。
- エアコンを自動でつけてもらう。
生徒の振り返り
いろいろなスマート家電を見ました。障害があっても全部機械に頼んでしまえば、届かないところもやってくれることが分かりました!将来一人暮らしをする時にスマート家電が欲しいです。
車いすが入れる広さを考えながら工夫して作りました。ただ家を作るだけではなくて家の広さをよく考えながら、将来一人暮らしをする時はよく考えたいと思います。
本授業の成果と課題は?
対象生徒は四肢の障害により、全介助で生活をしています。これまで積み重ねてきた力を社会で発揮することは難しいと考え、卒業後の生活に希望をもてずにいました。
そこで、障害があっても様々な支援を受け、自分なりの工夫を取り入れることで、自立して暮らすことができるのではないかと生徒自身が考えられるよう授業を展開しました。
IoTに関する学習では、A Iやセンサーとスマート家電を組み合わせて活用することで、「端末を取り出して連絡をする」、「スイッチを押して電気をつける」といった従来支援が必要であった動作を自動化できることを学習しました。
部屋のデザインでは、車いすを使用しながら快適に暮らすデザインを考えました。Roomleで置くことができる家具は、実際に購入することができます。一人暮らしをする際は、このアプリケーションで自分の住む部屋の間取りでシミュレーションをし、実際に購入した家具をイメージ通りに配置してもらう手助けになります。
生徒が卒業後、どのような環境に置かれても、これまでの経験や工夫を取り入れて快適な生活が送れるようにしていくことが大切です。また、これらの経験をきっかけに、卒業の後の暮らしの可能性を広げていけるよう今後も取り組んでいきます。
MESHを使用してみた感想は?
大事にしていることは生徒が「自分で考え、工夫する術を身につけること」です。調べ学習の一環で、MESHのレシピ集も参考にしました。今回の生徒さんはタブレットなどのICT機器との相性がとても良く、中学校1年生から使っていました。タブレットを使うことでハードルが減り、自分のアイデアを自由に形にすることができます。
今回のMESHや端末の操作はすべて生徒自身が行い、壁に貼り付けたりするところなど最低限必要なところのみ補助しました。このような試行錯誤が将来に生かせるようにと考えています。
関連情報
「Roomle」アプリ
「MESH」アプリ