特別支援教育「盲学校におけるプログラミング学習」

MESH動きブロックを付けて、筋力トレーニングの一つ、バードドッグ(ダイアゴナル)をしている様子
長野県長野盲学校高等部にて、MESHなどを取り入れたプログラミング学習を実施。MESHを活用して授業を実践された田中先生に、実施背景や授業展開について伺いました。
 
田中先生が笑っている写真
 
  • 学校名 :長野盲学校高等部
  • ご担当先生 :田中 裕幸 先生
  • 対象生徒 :全盲の生徒。自宅では音声で様々な雰囲気を感じながらゲームを行なっている。また、iPhoneのVOICEOVERを使ってメールを送信したり、必要な情報を検索したりできる。プログラミングにも興味を持っており、チャレンジしてみたいという願いをもっている。さらに、様々な運動にも積極的に取り組んでいる。
  • 実施時間:1年間 総合的な探求の時間(週1h)、情報(週1h) 
  • 使用端末 :MESHアドバンスセット×1セット(デモ機をご活用)
 
今回は教育関係者向けのデモ機貸し出しサービスをご活用いただきました! MESH - 教育関係者向けお貸し出し (meshprj.com)
 

本授業の狙いは?

「視覚によってプログラミングを進めていくアプリが多い中で、全盲の生徒に対し、音声読み上げ機能を利用しながら(時には教師が読み上げながら)、先進の機器をどこまで使っていけるのかを検証することを目的としていました。また主体的なプログラミング学習への取り組みによって、 達成感、成就感、期待感を育み、予測、実践、振り返り(AARサイクル)の力を高めることをねらいとしていました。」
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AARサイクルとは?
AARサイクルとはAnticipation-Action-Reflection(見通し、行動、振り返り)のサイクルで、ある程度の見通しが立ったらすぐにやってみる。作りながらバグを直して少しずつ完成に近づけていく。そういうサイクルです。デバッグ主義と言い換えてもいいでしょう。 コエテコ by GMO 元文科省副大臣 鈴木寛氏インタビューより抜粋

MESHを授業に採用したきっかけは?

「昨年度、学校のICT活用推進担当者となったことがきっかけで、授業内でICT機器活用することを検討していました。当時長野県ICT・ATリソースセンターのセンター長だった青木先生が、過去の授業でMESHを用いたAARサイクルの実践をされていたことや、長野県の研修でMESHを使ったことで、活用のイメージも生まれ、授業に取り入れてみることにしました。」

授業の流れ・様子

全体の流れ

学期内容
1学期・ブロックリーゲーム 迷路(iPhone, iPadを使用) ・ブロックリーゲーム ポンドチューター(iPhone, iPadを使用)
2学期・MESH等を使った実践(動き・人感ブロック、iPhoneを使用) ・HSP(Hot soup processor)を使ったプログラミング(パソコンを使用)
3学期・HSP(Hot soup processor) を使ったプログラミング(パソコンを使用)
 

1学期 ブロックリーゲーム

まずはブロックリーゲームを用いてプログラミングの基礎を学習しました。
物理的なボードを活用しながら、実践していきました。指示は生徒が出し、それをもとに教師がiPad上にコマンドを配置していきました。
ブロックリーゲームと物理的なボード活用の様子
また迷路になれた後は、ボンド・チューターで、実際にプログラミング言語にふれました。コマンドを自分で入力することで、プログラムを動かすことができました。
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ブロックリーゲームとは? ブロックリーゲームとは、Googleが開発したプログラミング学習教材です。 ブロックリー・ゲーム (blockly.games)
 

2学期 MESH

MESHを活用するにあたり、まずは身の回りの課題探しから探し始めました。
「危険な場所を察知できるようにしたい」「運動中にバランスを崩しやすく、筋力トレーニングがうまくできているか確認したい」などといった課題が出てきました。
今回は後者の課題を実際に解決することとし、振動すると音が鳴るというロジックを利用して、体幹トレーニングの際、身体がぶれると音が鳴る仕組みを作りました。これによってトレーニングがうまくできたかどうか自分で確認できるようになりました。
運動中のバランスをお知らせするMESHレシピと、実際に使用している様子
MESH動きブロックを付けて、筋力トレーニングの一つ、バードドッグ(ダイアゴナル)をしている様子
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MESHの動きブロックを活用して筋力トレーニングに応用しています!生徒さんと先生が好きな”運動”に着目し、特に筋トレの中で感じる課題を楽しく解決する仕組みを考案しました!
 

2学期~3学期 HSP

MESHで実生活での課題解決に取り組んだ後、再度言語を使ったプログラミング学習を実施しました。HSP言語を用いて、音声や効果音を用いたゲーム作成を実施しました。
最後は、周りの方の意見を取り入れて、視覚的に楽しめるようにゲームを工夫することまでできました。
HSP言語でゲーム作成をしている様子
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HSP言語とは? HSPは、自作ソフト・ゲームを作れる開発環境・言語の一つです。 プログラミング言語 HSP3 公式 - HSPTV!

本授業の成果と課題は?

成果

  • ブロックリーゲーム、MESH
    • 課題をクリアすることで達成感、成就感、期待感をもてるツールとなった
    • プログラミング学習が自分の生活に役立つという感覚をもてた
    • 予測、実践、振り返り(AAR)のサイクルを短い期間で体感できた
  • HSP(言語をつかったプログラミング)
    • 自分の力でプログラミングできている感覚がもてた
    • プログラミングの内容を他者に説明できるレベルにたどりついた
    • 楽しいという感覚をもつと同時に、他者意識の向上もみられた
  • 全体
    • AARサイクルの繰り返しが、論理的な思考への一歩につながったと考えている
    • AARサイクルからの学びが実生活の場面で生かせつつあると感じている
 

課題

  • ICT機器の視覚的な要素は音声読み上げに対応しない場合が多い そのため自分で挑戦できている感覚が不足する、また使用する場合は他者の支援が必要となる
  • 運動機能向上に関するプログラミングは難易度が高い そのためアップルウォッチの機能等を利用する方が簡易的な場合もある
  • 言語でプログラミングを行う場合は、生徒の興味関心、ICT機器の活用スキルや将来へのつながりを考慮する必要がある そのため誰もが気軽に取り組める活動ではなく、指導できる人材も必要である

今回授業でMESHを使用してみた感想は?

「MESHを通して、プログラミングが身の回りの課題を解決できる可能性があり、自分の生活に役立つものであるという実感がもてました。今後は、科学へジャンプ等の機会を利用して、ICTや科学の分野にチャレンジすることの楽しさを体感していけるようにしたいと考えています。」
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科学へジャンプとは? 科学へジャンプとは、「視覚障害がある生徒のための科学へジャンプ・サマーキャンプ」として、全国の盲学校や視覚特別支援学校、 あるいは普通校に通っている視覚障害がある中学生と高校生に参加を呼びかけて実施されています。 HOME|科学へジャンプ 事業 (jump2science.org)

参考