少年院でのプログラミング教育~課題解決力を育み、社会での活躍をサポート~

2025年1月23・24日に、多摩少年院(東京都八王子市)で在院者と法務教官を対象に、MESH™を用いたプログラミング体験のワークショップ型授業をMESHプロジェクトのメンバーである萩原と原の2名が講師およびファシリテーターとして実施しました。この授業では、在院者がセンサーやプログラミングを使って身近な課題を解決する仕組みづくりに挑戦。
また、在院者に加えて、東京矯正管区内の法務教官に対して授業の実施方法や効果的な指導方法を説明し、法務教官が在院者に授業を行えるようにすることを狙います。2025年度には、職業生活設計指導の一環として、MESHを使った教育カリキュラム※が全国の少年院に導入される予定です。この研修で得られたフィードバックなどを考慮しながら、法務省とともにカリキュラムを策定していきます。
※本記事で紹介するカリキュラムは変更の可能性がございます。
 
本件に関するプレスリリース ソニーマーケティングがArc&Beyondと連携し、少年院のプログラミング教育等に関する取り組みを開始 -出院後の選択肢を広げ、再非行防止を目指す取り組み-
 
 

在院者向けのワークショップ「MESHを使って日用品を便利なものに変える仕組みを作ってみよう」


1日目は、多摩少年院の在院者12名が3名1組になり、ワークショップを体験しました。
本カリキュラムは、MESHを使って身近な課題を解決する仕組みづくりにチャレンジすることで、自ら考え行動する力や成功体験の積み重ね、学ぶ楽しさを実感できることをめざしています。活動を通じた自己効力感の向上に加えて、これからの時代に必要な情報を活用する力や、主体的に問題を発見し解決していく力を育むことにフォーカスしています。講師の2名も教えることよりも主体性を引き出すファシリテーターの立場で実施しました。
 

導入~MESHを使ってみよう

「自動ドアはどうやって動いているのでしょう」というファシリテーターの萩原からの質問に対して、在院者の一人が手を挙げ「上についているセンサーが反応して、ドアを開ける指示を出す」と答えました。萩原は「その通りで、自動ドアのような身近なものから、さまざまな仕組みがモノ×センサー×プログラミングで動いている。MESHを使ってそれを実感してほしい」と説明しました。
入門編として、各グループに配布されたMESHのキットとタブレット端末を使って、MESHの動きブロックを振るとスピーカーから音が出るというシンプルなお題が出されました。
 
最初は恐る恐るMESHを触っていた在院者も数分で使いこなす様子が見られました。つづいて、録音したメッセージを再生する、振ったら音が鳴って光るなど徐々にステップを増やしていきましたが、チームで相談しながらプログラミングをうまく組み立てていました。講師からは、作り方は一通りではないので、うまくいかなかったら他の方法も試してみてほしいとアドバイスがありました。
 

アイデア制作

今回のワークショップのテーマは「MESHを使って日用品を便利なものに変える仕組みを作ってみよう」というもの。教室の中央に置かれたさまざまな日用品を手に取り、相談しながら席に持ち帰る様子が見られました。
アヒルのおもちゃやスリッパ、掃除用具、メガホン、造花、カラーモールなどを並べ、「何を作ろうか」「音声を録音してくれる?」「モールを触ったのって小学校以来じゃないかな。久しぶり」などグループでコミュニケーションを取りながら、仕組みづくりにチャレンジしました。
 
 

発表

作った仕組みのポイントをワークシートに記入し、チームごとに発表しました。
アヒルのおもちゃが接着された微笑ましいメガホンを振ると「がんばれ自分!」という音声と歓声が再生される仕組みや、箱を開けると警戒音が再生されると同時にカメラで撮影する仕組み、花束を渡すと「結婚してください!」という音声が再生され、自分の代わりにプロポーズしてくれる仕組みなど、日常生活を便利に、彩り豊かにするアイデアが発表されました。
 

プログラムを体験してみて

ファシリテーターの原からは、身近な生活の中で不便な点=問題を見つけ、解決策を考えアイデアを形に、それを試すという1~4までのステップを体験したが、さらにそこから改善点を見つけてサイクルを回す体験を今後も積み重ねてほしいと説明がありました。
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体験してみてどうだった?
  • いろんなセンサーがあるので組み合わせでいろんなことができると可能性を感じた
  • 私たちのグループは個性が強いメンバーが多くて意見をまとめるのが難しかったが、いい経験になった。
  • 自然と役割分担ができていった。
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他のチームを見てどう思ったか?
  • カメラを使うアイデアは思いつかなかったので、すごいと思った
  • チームでいくつもアイデアを出していて、素直に意見を出して協力した結果だと感じた

法務教官向けの研修

2日目は法務教官向けの研修を実施しました。
冒頭、講師の原から、なぜこの時代にプログラミング教育が必要なのかを説明。AIやIoTなどのテクノロジーが生活から切り離せない昨今では、IT関連の職業に就く人にだけ関連するものではなく、どのような職業においてもプログラミング的思考で物事を考える必要があると強調しました。この教育カリキュラムにおいても、制作を通してプログラミング的思考を学ぶのが狙いと説明しました。
 
25年度に全国の少年院で導入される予定の教育カリキュラムについては、在院者の特性や各施設の運用状況に応じて選択可能なプログラムとなるよう、法務省と調整中である旨を説明しました。
 

ワークショップ

法務教官向けの研修でも、まずはMESHを実際に使ってアイデアを形にするワークショップを実施。在院者のワークショップと同様に「日用品を便利なものに変える仕組みを作ってみよう」というテーマにトライしました。
研修参加者からは、職員が便利になる仕組みとして、物品の在庫管理システムなどが発表され、ほかのグループからは「業務に応用できる仕組みで感心した」などのコメントが挙がりました。
さらに、授業カリキュラムで検討している他のテーマのワークショップも実施。商店街のお弁当屋が抱える課題を解決するための仕組みをチームで話し合い、MESHを使った解決策について、手を動かしながら制作し、発表しました。
研修参加者は、同じ課題に対してもとらえ方は個人やグループによって異なる点、どこに視点を置くかによって作る仕組みは異なる点など、発表を通じて体感しました。また、他のグループの発表を通じて「そういうふうに組み立てると、うまく働くのか」「その視点はなかった」など、新たな気づきが得られた様子でした。
 

振り返り

今回の研修を通じて感じたことをグループに分かれて共有しました。今後の各施設の展開を鑑みて、どのような点がよかったと感じたのか、また不安に感じた点や懸念点についても挙げていきました。
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面白かった・夢中になれた場面と理由
  • インターフェースが明確ですぐにプログラムを試して結果がでるので、問題解決に向けて試行錯誤できた。
  • お弁当屋の課題は社会に紐づいたテーマだったので、社会の一員であることを感じながらワークショップを進められた。
  • 一人で解決策を見出すのが難しかったが、グループで考えることでさまざまなアイデアを思いつくことができた。
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やりづらかった・違和感を覚えた場面と理由
  • 自由度が高い最初の課題(日用品を便利にする仕組み)のほうが、課題の抽出からスタートしなければならず、難しいと感じた。
  • 授業の進め方として、自分のアイデアをまず出してみて、そのあとみんなにアイデアを共有するなど、今回と違ったやり方でもいいのではないか。一人でまず考えてみる時間が必要な少年もいるように感じる。
  • 答えがないことに面白さを感じる人もいれば、もやもやするタイプの人もいそうなので授業を設計する上ではその難しさがある。
 

MESHを使った学習指導について

参考として、ICTに関する職業指導の一環としてMESHを用いた授業を導入した新潟少年学院の事例を紹介。授業を実施した法務教官のコメントを抜粋し、教えることにフォーカスせずにファシリテーターに徹することが重要である点や、実施時のルールを明確にした上で、アイデアを自由に出していく発散と、仕組みに落とし込んでいく収束を繰り返すことでアイデアを形にしていくプロセスが学べる利点があると説明しました。
それをふまえ、実際にMESHを使った授業を組み立てる際のポイントについて講師から説明がありました。カリキュラムは、プログラミング自体の習得ではなく「プログラミング的思考」を学ぶことを目的としており、この思考力が社会に出てからの課題解決に役立つものであることを改めて強調し、プログラミング的思考とはどういったものか、図と具体例を用いて説明しました。
 
授業指導をする際のポイントとして、主体的に自らが解決策を考えるために体験参加型のワークショップ形式が効果的である点、各施設や授業ごとに適したテーマを指導者自身が選定してもよい点などを説明し、法務教官自身が授業を行えるようなサポートを行いました。
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全体を通しての研修参加者の感想
  • プログラミングになじみがなく身構えていたが、ハードスキルではなく、ソフトスキル(プログラミング的思考を学ぶ)と聞いてから納得感が上がった。
  • この二日間の研修を通して、授業をこうやってみたいというアイデアがたくさん湧いてきた。実際に実施して、結果を他の施設にも共有することでブラッシュアップしていきたい。
  • 楽しかった。少年たちも楽しくできるだろうと思う。一方、施設での運用は職員の配置、ほかのカリキュラムとのバランス・実施期間など、検討事項はたくさんあると感じた。

今後に向けて

MESHプロジェクトでは、全国の少年院の法務教官を対象に多摩少年院と同様の授業および研修を実施してきました。これらを通じて得られたフィードバックをもとに、2025年度に向けて、在院者の多様な特性にも柔軟に対応できるカリキュラム開発を行うとともに、現場の法務教官らが在院者を指導できるようサポートを進めていきます。さらに効果測定として、第三者機関による社会的インパクト評価のモデルを構築し、実施による効果検証や結果に基づく教育カリキュラムおよび教材の改善を継続していく予定です。
また、このプロジェクトで得た知見を活かし、一般社団法人Arc & Beyondと連携のもと、在院者の社会参加支援を推進していきます 。今後も、法務省やさまざまな関係者との連携のもと、将来的には出院後の支援やあらゆる子どもたちが学び続けられる環境づくりに貢献してまいります。

Arc & Beyondの取り組みについては、公式サイトや各種オウンドメディアをご参照ください。

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